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第25回東京国際映画祭
「帰り道」インタビュー



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第25回東京国際映画祭
「帰り道」
アピンヤー・サクンチャルーンスック(サーイパーン)

【 プロデューサー、監督、主演女優にインタビュー 】
 東京国際映画祭の際に来日された、プロデューサーのタックサコーン・プラダップポンサー氏、監督&脚本のトーンポーン・チャンタラーンクーン氏、主演女優のアピンヤー・サクンチャルーンスック(サーイパーン)さんにインタビューをさせていただきました。
(インタビュアー: 原智子/アジア圏映画探求ライター、長島文雄/(有)アジアネットワーク 協力: 東京国際映画祭)

アピンヤー・サクンチャルーンスックさん
 インディーズ映画ですが、人気若手女優のアピンヤー・サクンチャルーンスック(サーイパーン)とアカムシリ・スワンナスックが出演。二人の素晴らしい演技によって、ジグソーパズルが1枚1枚はまっていくように家族の関係や姉妹の葛藤が次第に明らかになり、エンディングでは静かな感動に満たされる作品でした。
 10月27日、来日中のプロデューサーのタックサコーンさん、監督のトンポーンさん、そして妹役を演じたアピンヤーさんにインタビューしました。
(注:インタビュー内容に作品のネタバレあります。)

 インタビュー場所である部屋へ通され、通訳の方と話をしているとドアが開く音がして振り向くと、そこにはアピンヤーさんを真中に挟み三人の方が立っていらっしゃいました。プロデューサーと監督は結構ラフな格好で、アピンヤーさんはその間でちょっとはにかんだような感じでしたね。彼女を見た第一印象は、「映画と同じ顔の人だ」(当たり前ですが)、「かわいい」「顔が小さい」「化粧は濃くない」(以前お会いした日本の某女優さんが白塗りのお化けでしたので)でした。
 インタビューが始まると、プロデューサーが席を立ち何を始めるのかと思ったら、我々のインタビューの様子をカメラで撮影(たぶん、動画モード)し始めたのです。まあ、通常はプロデューサーへの質問って少ないですからね。というような感じでインタビューは始まりました。

トーンポーン・チャンタラーンクーン氏
◆『帰り道』について
--『帰り道』の妹パーンは、最初からアピンヤーさんをイメージして脚本を書かれたそうですが…
[監督] 脚本はいつも想像上のキャラクターを作って書き進めていくんですよ。『帰り道』では、アピンヤーを思い浮かべながらパーンの性格や行動を書いていきました。彼女を選んだのはただ、なんとなく(笑)。彼女の出演した作品はもちろん見てましたが、会ったことはなかったしね。ただ、一緒に脚本を書いた他の2人はアピンヤーを直接知っていて、彼女のイメージで書くといいと私に勧めてきたんですよ。
 脚本が完成して役者のオーディションを始めてみると、パーンに合う人は一人もいなかった。やはりこの役はアピンヤー以外にはいないと思って連絡したら、引き受けてくれました。

[アピンヤー] ええ!そうだったの?まったく知りませんでした(笑)。私をイメージして書いていたということですが、ちょっと訂正しておきたいのは(注:ちょっとではなく、彼女は力説していました)、パーンは少し暗い感じの性格ですが私はもっと明るいですよ。
 この役を引き受けた時点では、まだ脚本は読んでいませんでした。監督とプロデューサーにお会いして役の説明を聞くと、若者がある時期に経験する家族との葛藤について描かれているということでした。それなら私も若い時に多少経験しています。二人の話を聞くうちに、私はこのキャラクターが好きだと思ったんですね。この役を他の女優さんにやらせたくない!私が演じたいと思いました。
--若い時って、今でも若いじゃないですか。
[アピンヤー] 若いですか?
※彼女はまだ22歳です。彼女が若くなかったら、私なんかミイラですよ。

--パーン役について監督はどんな演技指導を? 
[監督] このキャラクターは家族に対する気持ちを表に出さない、内面に秘めている女の子だということを説明しました。家族の死の悲しみを直接的には表現しない。彼女が感情を露わにできるのは友人たちだけ。友達の前だったらリラックスしてすべてを出せる。そんな簡単な説明をして、あとは二、三回リハーサルをしながら演技を決めていきました。

--アピンヤーさんはどうやって役に入っていきましたか?
[アピンヤー] 私も10代のころ、ヒロインと同じように家族と離れようとした時期がありました。田舎に暮らす母親と離れてバンコクの叔母さんの家で高校生活を送っているパーンとは異なり、私はずっと家族と一緒に暮らしています。ただパーンと同じ16、7歳の頃は、家族と距離を置きたいという気持ちがありました。家に帰っても自分の部屋に閉じこもって音楽を大きな音で聞いたり、友達とケータイでチャットしたり。「お母さん、じゃましないで」という感じ(笑)。両親がいて、家族の愛が十分にあるというだけでは何か足りないという気持ちが10代の頃にはあるんですね。
 こうした自分自身の経験から、パーンにはスムーズに感情移入できました。また、以前出演した映画『プローイ』で演じたヒロインともちょっと似ていたことも、演技をする上での助けになった気がします。『プローイ』の時の役と同じようなイメージで演技しました。
 撮影前に、私はかなり役の準備をしていきます。いよいよ本番という時は、カメラの前に立って演技をする2分前に現場に入り、キャラクターを自らになじませるようにしています。今回は車の中での演技が多かったですが、車の中に入ると自然に役を演じられました。もちろん事前に監督ともよく話し合いましたしね。

--さて、この作品で最大の謎があるのですが。お母さんが死んでパーンが病院のトイレで泣く場面がありますが、途中、鏡を見ながら笑みを浮かべていましたよね。ちょっと不思議で印象的なシーンでしたが、あれは監督の指示だったのですか? 
[アピンヤー] あのシーンについては最初から脚本に書いてありました。私も他の人たちも「どうして?どうして?」とみんな疑問に思ったんですよ。監督に聞くと、パーンは家族から離れて生きていて、家族なんていなくてもいいんだと強がっている面があるけれど、鏡を見たら自分の中にお母さんのすべてが表れているのに気が付くのだというんです。目も表情もお母さんにそっくりで、逃げようとしても結局は家族からは逃げられないのだということがわかって、ふと笑ってしまう…。それでああいう演技になりました。
 実は演じる前は、このシーンの演技はすごく簡単だろうと思ってました。でも実際にやってみたらとても難しかった。長回しでしたしね。ですから、あのシーンに気付いていただいてとても嬉しいです。

--お姉さんが同性愛者であることにバーンはどこの時点で知っていたという設定なのでしょうか?
[監督] パーンがホテルで、お姉さんのケータイの待ち受け画面を見たときに気付くのです。車中でお姉さんが電話していた相手はただの友達ではなくて特別な人だったのだと気が付いて、ジグソーパズルのパズルが1枚ずつはまっていくように今まで謎だったことが明らかになっていくのです。それで、姉は結婚しなかったのだと。

--ロードムービー的な作品でしたが撮影での苦労はありましたか?
[アピンヤー] 通常の映画と同じで、撮影が順調に終わった日はいい気分、車やカメラの故障などでうまく進まなかった時は少し重い気分でした。普段、あちこちタイの地方に旅行しているので、田舎に行くということ自体は特に珍しいことはなかったです。ただ、監督がストーリーの順番どおりに撮影してくださったので、パーダンベサーに到着した時にはパーンがそうであるように、遺体の乗っている車にいることにすっかり慣れていました。
 大変だったのは(死体の)お母さん役です(笑)。私と姉役のアカムシリさんは相手だけのシーンではいなくてもよかったのですが、お母さん役だけは常に車中にいなくてはならなくて休めなかったのです。顔だけのクローズアップのシーンが多いとはいえ、ずっと身動きできない状態で頸が痛くなったそうです。今回の撮影で一番大変だったのは、彼女ですね。

--バンコクの高校生や若者はパーンのようにショッピングモールなどで遊んでいるんですか?
[アピンヤー] そうですね。ショッピングモールでスケートしたり、格好いい男の子を見に行ったりする女の子たちもいます。私はショッピングモールには行かず、友達とギターを弾いたり、あと古着屋さんに行ったりしてました。私は古着が大好きなんです。私、女性の友達より男性の友達の方が多いし。その他にもバンコクでは若者たちが遊ぶさまざまな場所がありますよ。

※写真を撮り終え、窓から外を眺め退屈しているプロデューサーに
--プロデューサーにうかがいたいのですが、『帰り道』のようなインディペンデント映画の制作のご苦労は?
[プロデューサー] 一番の問題はお金です(笑)。とにかくお金です。今回の映画に関しては、ヒロイン二人のスケジュール調整が大変でした。アピンヤーさんはもちろんアカムシリさんもテレビドラマや映画で多忙な方なので、やむを得ず別撮りしたシーンもあります。
 お金の問題は、インディーズ映画に常につきまとう問題ですね。いろいろなところから集めていくしかないです。政府からの助成金、民間のスポンサー、私自身も出資してますし、海外からの投資も募ってます。また、キャストやスタッフには、インディーズ映画なのでスタジオで撮る大きな映画とは予算が違うということを理解していただいてます(笑)。

--(監督とアピンヤーさんに対し)今回はほとんどギャランティーをもらっていないのではないですか?
※二人は顔を見合わせて
[アピンヤー] 私、映画好きなのでね・・・・。

--この作品はDVD化の予定はあるのでしょうか?
[プロデューサー] 劇場公開(現在、バンコクで公開中ですが)が終わった後、CA TVで放送予定です。DVD化はその後に検討します。日本のCA TVで放送してくれませんかねえ?

タックサコーン・プラダップポンサー氏
◆アピンヤーさんにさらに質問
(映画の現場にいるのが幸せなんです)

--ドイツ映画に出演したり、いろいろな作品でさまざまな役を演じていますが、役を選ぶポイントは?また、映画にはたくさん出演しているのにテレビドラマにはあまり出演されてませんよね。

[アピンヤー] まだ学生なのです。だから時間が足りません。それで、好きな映画を優先させています。それに今は映画に出演するのが楽しいですね。撮影の現場にいるととても幸せなんです。タイの映画界は規模がそんなに大きくないので、若いときから仕事をしているとみんな知り合いなんです。だから、撮影現場に行くのは、大好きな親戚の家に遊びに行くような感じなんです。撮影でいろいろな地方に行くのも楽しいですね。
 演じてみたい役についてですが、とりあえず知っている人の作品には出たいです。さらにこれまで演じたことのない役もぜひやってみたい。軽いコメディもやりたい。要は映画の撮影現場にいたいんです。

--映画によってイメージが全然違いますね。
[アピンヤー] それは髪型が変わるからかもしれません。私は髪型が変わると顔の印象も大きく変わるんです。それによって、性格も変わっていくような気がします。役柄によって髪形を変えているのですよ。

--『アフタースクール』という作品で歌うシーンがありましたが、あれはご自身で歌っているのですか?
[アピンヤー] はい!本当に私の声です。
※プロ並みとはいいませんが、なかなかの歌声です。

--今、学校では何の勉強をしているのですか?
[アピンヤー] 映画制作です。将来は制作の仕事もやってみたいです。制作者で女優…ってかっこいいですよね。
--ということは、将来は監督もやってみたいということでしょうか?
※アピンヤーは監督の顔をうかがって
[アピンヤー] えへへっ。

※学生というのが大学の映画科を指すのか映画の専門学校を指すのかは不明。確認したいと思ったのですが、なにせ時間がなかったので聞きませんでした。

--アピンヤーさんのデビュー作『プローイ』でアピンヤーさんはまだ17歳であるにもかかわらずタバコを吸っているのですが、あれはいいのですか?
[アピンヤー] 映画ですので。
--映画の中でもまずいのでは?
[監督] だから映画には年齢制限が付いているのです。

--でも、十代の女優がタバコを吸っていたら検閲通らないのではないですか?
[監督] 映画ですので。
※完全にはぐらかされましたが、これ以上突っ込むのはやめました。

アピンヤー・サクンチャルーンスックさん
[インタビュー後記]
 インタビューに応じていただきまして、ありがとうございました。三人ともとても気さくな方たちでした。当初、インタビュー時間は45分ということだったのですが、30分経過した時点で「あと5分」のメモが回ってきました。そんな~。でも、時間がなくインタビューを終わらせようとすると、監督が「いいから、質問があるのでしたら急いで質問してください」とのこと。少し時間を延長させていただきました。
 インタビュー後、写真撮影もしなくてはならず急いで行いました。本当はアピンヤーさんにしてもらいたいポーズも考えてあったのですが、残念ながらそんな時間はありませんでした。あとで写真を見て気付いたのですが、アピンヤーさんは豹柄の服を着ていたのですね。インタビュー時には距離が近過ぎて気付きませんでしたが。


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